日々読んだ本(漫画、映画、例外的にテレビドラマ)の感想を、
ネタバレあり、粗筋なしで書いています。
批評批判は目的ではなく、個人的な感想文です。
<< November 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

『楽しい夜』

映画はよく観てるんだけど、本は最近全然読めてないっすね・・・。

 

【編訳/岸本佐知子 講談社】

 

いろんな短編が詰まっていて、そのどれもが読書の楽しみにあふれている。

 

「ノース・オブ」 マリー=ヘレン・ベルティーノ

 

ボブ・ディランを連れて、戦場に発つ兄に会いに実家に戻って来たわたしの話し。

ボブ・ディランはほぼしゃべらないのでこれは本当にボブ・ディランなのだろうか・・・ということばかりに気を取られ。

しんみりするのにシュール。

 

「火事」 ルシア・ベルリン

 

末期の癌におかされている妹に会いにやってきたわたしの話し。

妹と再会した空港が火事になるので火事っていうタイトル。

再会の一瞬に、二人の姉妹の思い出を織り交ぜながらスピーディに展開していく。

 

「ロイ・スパイヴィ」 ミランダ・ジュライ

 

ひょっとしたら人為の大きな分岐点を見過ごしたかもしれないということを、ずっと後になって気が付くというのは絶望ほど強くもないけど、その後の人生をひどくしんどく感じさせるな。

 

「赤いリボン」 ジョージ・ソーンダーズ

 

一匹の病気を持った犬が子供を噛み殺したことから端を発して、村ではその対処がどんどんエスカレートしていき感染している犬だけではなく、犬以外も処分していくようになっていく。

エスカレートしていく様は怖いんだけど、娘を失った父親の語りはそれはそれで真に迫る。

 

「アリの巣」 アリッサ・ナッティング

 

本書の中で一番おかしな話し。

「地球上のスペースが手狭になったので、人類は全員、他の生物を体表もしくは体内に寄生させなければならないことだった」

から始まる。もうすでに奇妙な設定だけど、女優の「わたし」は見た目が変わらないように、骨の中でアリを飼うことにする。

グロテスクなんだけど、淡々と進むのでこれはこれでよいのか、と思ってしまうが、やっぱり気持ち悪いな。

他の作品も読んでみたい。

 

「亡骸スモーカー」 アリッサ・ナッティング

 

前出と同じ作家。葬儀場で働いている男は遺体の髪をタバコのように吸うことで、生前の記憶を見ることが出来る。

そんな男に恋しているわたしが、告白するよりも自分の髪の毛を吸って気づいてもらいたいと思う。

やっぱりちょっと薄気味悪いけど、前の話しよりは軽めで、かわいい印象すら抱く。

 

「家族」 ブレット・ロット

 

喧嘩を始めた夫婦が子供たちがいなくなっていることに気が付く。

子供達は意外な場所で意外な姿で見つかる。

 

「楽しい夜」 ジェームズ・ソルター

 

三人の女性が他愛無い話しをしているありふれた夜の話しかと思ったら、そうではないということが最後にわかる。

 

「テオ」 デイヴ・エガーズ

 

大きな山のような人間の話し。

ダイナミックで繊細。

 

「三角形」 エレン・クレイジャズ

 

喧嘩してしまったパートナーに、お詫びの品としてナチ時代に同性愛者につけられたワッペン(これが三角形)を買う。

このプレゼントをしてしまったがために迎える結末はちょっと声が出そうになるくらい怖いし無残。

 

「安全航海」 ラモーナ・オースベル

 

おばあちゃんばかりが乗った船、これはたぶん死出の旅。

どうして祖母ばかりなのかはわからないけど、海は晴れていてのどかで美しく、おばあちゃんたちもなんだか溌剌としている。

そういう美しい死出の旅であればという願いを感じる。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

【フィリップ・K・ディック 訳:浅倉久志 ハヤカワ文庫】

 

映画『ブレードランナー』の原作としても有名な本書ですが、映画の方は観た記憶がないので映画の話しは脇へ置いて感想を。

 

火星から逃亡してきた八体のアンドロイドを追う賞金稼ぎのリック・デッカードの物語。

舞台は第三次世界大戦後、放射能に汚染された地球では動物がとても希少価値の高いものとして、みんな本物の動物を飼うことを願っている。

本物の動物を飼うことはステイタス以上に、人間性の証明としてほぼみんなが何かしらの動物(虫とか爬虫類も含む)を飼っているが、リックたち夫婦は電気羊しか飼っていない。

 

生き物が嫌いな人はこの辺、いまいち共感できなさそうな設定だな、と思いました。

私は動物好きなのでふむふむ、という感じですけど。

 

話しの筋はシンプルなんですが、アンドロイドの存在定義があとがきにあるように、非人間的なものの比喩としてアンドロイドがいて、マイノリティの比喩としてのアンドロイドじゃないのはだいぶほかの作品と違うな、と。

人間っぽいアンドロイドもいれば、アンドロイドっぽい人間もいる。

リックはそこで生物学上の区別の意味を見失い、仕事の意欲も喪失する。

 

しかし物語の舞台、1992年なんだなー。もう遠い昔だよ。

近未来がすでに過去になった時代にいるなんてめまいがする。

『すべての美しい馬』
【コーマック・マッカーシー 訳:黒原敏行 早川書房】

祖父の死で牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレイディ・コールは親友のロリンズと馬に乗って、メキシコへ渡った。
道中で、年下の少年と出会い、思いがけない運命をたどっていく。

映画化しているようですが、そっちは観ていません。

主人公のジョン・グレイディと出会った少年ブレヴィンズとの道中は、冒険物語にも見える牧歌的なものなのだけど、ブレヴィンズの馬がいなくなって以降、不穏な展開に。
そして、ジョン・グレイディとロリンズが辿り着いた先で、ジョン・グレイディが身分違いの恋をすることにより一気にバイオレンスの色合いが濃くなる。
二人が刑務所送りにされてからの重苦しいほどの緊張感と暴力は青春小説とは呼び難い。
ジョン・グレイディの一本気な道徳観はこの不条理な暴力の中では清々しいし、ロリンズとの友情もいい。

会話のカッコがなかったり、一文の独特の長さが慣れないとなかなか読みにくい。翻訳大変だろうなぁと思う。
『星の王子さま』
【サンテグジュペリ 訳:池澤夏樹 集英社】

とても今更なんだけど、初めて読みました。
いろいろと、なるほどこれのことか、と納得するものが。
しかし、子供の本みたいな扱いだったけど、これを子供の頃に読んでもたぶん、あんまり共感することはなかったように思う。
読んだ年齢のそれぞれによって、ぼくと王子さまとバラと、他の星の人々は違う見え方がするのかもしれない。
すっかり大人になってる私にはそんなに大人を責めないでやってよ・・・という気持ちにもなる。

ぼくと王子さまはそれぞれサンテグジュペリの分身だとも読め、そうすると飛行機で消息不明となった作家の顛末もなんだか寓話的に思えてくる。
『白い牙』
【ジャック・ロンドン 訳:白石佑光 新潮文庫】

犬の血の入った野生のオオカミ、ホワイト・ファングの数奇な一生を描く小説。
『野生の呼び声』とは逆に、運命の出会いをして安住の地を手に入れるまでが書かれる。
愛する主人と出会ったあとのホワイト・ファングの従順さが、犬好きとしてはぐっとくるものがある。そこまでが過酷だったので。
『異邦人』
【カミュ 訳:窪田啓作 新潮文庫】

母の死の翌日に、海水浴に行き、女と関係を結び、喜劇映画を観、自分とは直接関係のなかった男を殺したことにより、死刑の判決を受けるムルソー。

裏の粗筋ほぼそのままなんですが、不条理を描く小説として有名で、この粗筋からなんとなく主人公がサイコパスのようなものとして書かれてるのかと思ったのですが、そういうわけではなかった。
そういう風に読む人も多いかもしれないし、それこそがこのムルソーがたった一人殺しただけで死刑の判決を受ける理由にもなるのだけれど、私にとってはムルソーの心の動きが理解不能なものではなくて、ラスト、殺人で裁かれるのではなく「母の埋葬に際して涙を流さなかったこと」に対して裁かれることに暗澹とする。

再三断り続けた司祭についに激するところもすごいわかる。

あと、リーガルサスペンス好きとしては、ムルソーくんはもっといい弁護士つけるべきだった、と思いました。
『アイ・アム・レジェンド』
【リチャード・マシスン 訳:尾之上浩司 早川書房】

ウィル・スミス主演映画の原作。
解説にもあるように、この原作の映画化はウィル・スミス版で3回目。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』も入れれば4回映画化している。
ウィル・スミス版、ナイト・オブ〜と大きく違うのは、ゾンビじゃなくて吸血鬼っていうところ。
蘇る死者という点は一緒だけど、吸血鬼なので話す。ある程度、知性も残っている。
この塩梅が曖昧なので、そんな多勢に無勢で数年間もよくこの主人公生き延びられるな、というのが正直気になる。
吸血鬼なので、十字架、ニンニク、日光、杭などの弱点もある。
それらにはおいおい説明付けがされていく。

ゾンビの方で見慣れているので、こういう終末もので吸血鬼ってなんだかなーと思いながら読んでたのだけど、最後の最後のオチのためには知性も思考もないようなゾンビじゃだめだったんだなぁという納得。
以下ネタバレ。
続きを読む >>
『野生の呼び声』
【ジャック・ロンドン 訳:深町眞理子 光文社古典文庫】

最近、ウォーキング・デッドにはまっていて、アメリカの大自然での生活って厳しいなぁと思っていたら、ロンドン読みたくなったのでこれ。※ウォーキング・デッドの脅威はそういう脅威じゃない。

大きな屋敷で悠々と暮らしていた、大型の雑種犬バックは、使用人の裏切りによって売り飛ばされ、橇犬としての過酷な労働を強いられることになる。その生活の中で、徐々に野生の本能が呼びさまされていくバックの物語。

犬好きとしては犬が辛いのやだなぁと思いながら読み始めたのだけど、可哀想などと言うのはお門違いで、バックも他の犬たちも強靭で誇り高い生き物であった。
ただ、二番目に売られた犬の扱いがわかってない素人3人組に関しては、その顛末に溜飲が下がる。

最後の飼い主となるソーントンに対して、初めてバックは愛情を覚え、その愛情の深さ強さがまさに犬で、胸が熱い。
他の犬と違って、わかりやすく甘えるわけではないけど、ひたすらソーントンの一挙手一投足を見つめ続けるバックが、過酷な運命を経たあとなだけによかったなぁと。
犬ってほんと飼い主しだいだよな。
『ミザリー』
【スティーヴン・キング 訳:矢野浩三郎 文春文庫】

説明不要の傑作ミザリーですが、ま、一応あらすじを。
ベストセラー作家ポール・シェルダンは雪道で自動車事故を起こし、元看護婦のアニーに助けられる。
ポールの愛読者だというアニーはそのままポールを監禁し、ミザリーシリーズの執筆を要求する。

映画で遠い昔に観たと思うんですけど、ほぼ記憶のかなたでアニー怖いというのだけが鮮明。
読むと、ポールの事故の怪我が相当ひどくて、これは無理・・・ってまずなる。
監禁ものってされてる側の行動が、なんでそんなことしたのかしなかったのか、が疑問だったりすることがあるけど、ポールに関してはそれがなく、読んでるこっちの気持ちが折れてくる。

思ったよりアニーは姿を現さないのだけれど、その存在が怖い、と同時に活字中毒者なら誰でもポールに続きを要求するアニーの気持ちが分からなくもないところがまたちょっと怖い。
もちろん、共感したり同情したりできるほどアニーは甘い存在じゃないですけど。

以下ラストに関して。
続きを読む >>
『ロボット』
【カレル・チャペック 訳:千野栄一 岩波文庫】

ロボットという言葉の語源となるチャペックの戯曲。
人間の代わりに人造人間が労働を肩代わりする世界。
ロボットたちは痛みもなく、感情もない。
けれど、意思をもつロボットを作ったためにロボットたちは反乱を起こす。

今となってはこの手のテーマは山ほどあって、そんなに新しい感じもしないのだろうなと思って読んだのだけれど、1920年のこの作品が現代の作品よりも新鮮に感じられた。
まず序幕でヘレナという若くて美しい女性が、ロボット工場を訪れロボットとはどういうものなのかという説明がされる。
工場には社長のドミン、ファブリ技師、ガル博士、ハレマイエル博士、ブスマン領事、アルクビスト建築士の6人がいてそれぞれがヘレナにロボットを説明するのだけれど、みなが去った後ドミンがおもむろにヘレナに求婚し、しかも自分が言わなければほかの五人もあなたに求婚する、と言い出す。
冒頭はロボットよりも、この奇妙な人間たちの関係が気を引く。
そして第一幕では、社長であるドミンとヘレナの結婚10周年を祝う。
10年経っても、ドミン以外の五人がヘレナを愛しているのは明らかで、いったいどういう10年だったのかと思う。

最初からロボットに同情的だったヘレナが、ロボットに感情が宿るようにしてほしいとガル博士に頼んだことから、ロボットの反乱は始まり、人間たちはあっさりと滅亡においやられるが、ロボットたちは自分で自分を生産できない。
最後に一人残された建築士のアルクビストにも生産方法はわからず、一人生き残ってロボットに囲まれて生きているアルクビストの独白や、ロボット・ダモンの解剖シーンは舞台で観たらさぞ鬼気迫るシーンになるだろう。

最後に人間もロボットもいなくなり、愛が残るのは美しいような恐ろしいようなラストだった。