日々読んだ本(漫画、映画、例外的にテレビドラマ)の感想を、
ネタバレあり、粗筋なしで書いています。
批評批判は目的ではなく、個人的な感想文です。
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『あるキング』
【伊坂幸太郎 徳間文庫】

あらすじやら帯やらにほかの伊坂小説とは違うと書いてある通り、ミステリではないしなにか仕掛けがあるわけでもない。
『マクベス』を下敷きに一人の天才バッターの不幸というか数奇な人生が書かれてる。
じゃあ野球ものかというとそういうわけでもない。
天才バッターである王求(おうく)の誕生からその最後まで、とある視点で語られる。
不幸と言えば不幸で、不遇と言えば不遇だった王求の人生なのだけれど、かといってそれが悪かったという風にも見えない不思議な読後感。
フェアはファウル、ファウルはフェアと何度も引用されるように、いいも悪いも明確にしない、されない物語は読む人にとっては不親切なのかもしれないけど、伊坂小説ってそうじゃないか。
書きたい話を書いたんだろうなぁという感じがしてよかったです。
 
『砂漠』
 【伊坂幸太郎 新潮文庫】

大学生5人組の青春小説。
伊坂なので、そこに通り魔とか窃盗犯とか超能力とかが絡んでくるのだけれど、5人たちの熱いわけでもないけれどかけがえのない学生生活。
平凡とは言いがたいけれど、どこか覚えのある雰囲気で、伊坂作品では一番身近に感じる話しだったように思う。

伊坂作品に時々出てくるめんどうくさいキャラの中でも、西嶋は特にめんどうくさい部類だとは思うのだけれど、その言動のいちいちに喝采を送りたくなるような爽快さがある。
友人にいたらめんどうくさいとは思うけれど、楽しいとも思うなぁ。
窓に「中」を作るシーンは本当に感動する。
それに、西嶋がついに東堂に会いに行くシーンは、北村たちと一緒に拍手をしたくなった。

5人が出て行く社会が砂漠ってほどひどいところじゃないといいよね。
というかそこまで社会は過酷でもない。
『ゴールデンスランバー』
 【伊坂幸太郎 新潮文庫】

首相暗殺の濡れ衣を着せられた一般人の話し、というのはまあ、よくあるのですが、全貌が見えない組織の巨大さよりも、どんどんと社会の空気が青柳が犯人であるという方向に向いていく様が怖い。
そしてそういう空気というのは大きな事件が起こると、本当によく見る。

あいつが犯人だという空気に染まっていく中、青柳が過去に関わった人たちが皆、青柳を信じているのが救い。
そしてまた、そんな状況でも「人間の最大の武器は信頼なんだ」と言える強さに感動する。

ラストは真犯人が捕まって濡れ衣が晴らされるという他の作品のパターンからすれば、物足りないかもしれないが、これがどうすることもできない巨大な陰謀に巻き込まれた一般人が得られる最大の勝利だったと思う。
『フィッシュストーリー』
【伊坂幸太郎 新潮文庫】


連作短編のような。
連作というほど密接ではなく、伊坂作品はだいたいほぼ全部リンクしてるから短編を集 めれば連作になる、といいますか。

「動物園のエンジン」
ちょっとしたミスリードはあるのだけれど、伊坂作品に馴れてる人は引っか からないかな、と。
たわいない話なのにどうしても暗い影を落としたいんですねぇ・・・。

「サクリファイス」
お馴染みの黒 澤が主人公。
田舎の変わった風習が題材となってて、『オーデュポンの祈り』のような。
ちょっと変わった趣向でよかったです。

「フィッ シュストーリー」
方法は『死神の精度』と同じ。
どんな歌なのか聴いてみたい。
最近の伊坂の中では素直に爽やかな印象の話しではな いでしょうか。

「ポテチ」
ポテチの意味がなるほどな、と。
ただ若葉さんがどうも好きじゃなく。

『陽気なギャングの日常と襲撃』
 【伊坂幸太郎 祥伝社文庫】

前半が連作短編集めいた4編。
後半は前半の伏線を回収しつつの、お馴染みの4人組みによる強盗、誘拐事件、カジノ潜入などなどもりだくさん。
途中で久遠が捕まったり、銃撃されたりスリルも増え、今回も小気味よく進む。
昨今、ダークサイドへ行こうとがんばってる伊坂の純然たるエンターテイメント小説としてできれば続けて欲しいシリーズです。
伊坂がどうしても黒くなりきれないのは、なんやかんやで主人公が品行方正だからなんじゃないかなーと本書を読んで思いました。
別に無理に黒くならなくていいと思うんだけど・・・。
今回は、間抜けな誘拐犯二人組みについて、久遠がラストで今でも人質を探している姿を想像するけれど、恐らくは消されているだろうと、久遠も読者も充分承知しているという点、伊坂なりのせいいっぱいの苦さなんだろうなぁ。
別に無事でいてもばちは当たるまいと思うのだけれど、そうしないんだなぁ。伊坂は。
『終末のフール』
 【伊坂幸太郎 集英社文庫】

8年後に小惑星が衝突して世界が終わることがわかってから、5年後の世界の話し。
つまり世界滅亡まであと3年というところ。
死ぬほどありきたりのシチュエーションで伊坂じゃなかったら読むのも嫌だという設定なんですが、読んでもわざわざ伊坂幸太郎が選ぶような題材でもない気がしました。
相変わらず舞台は仙台。とある団地の人びとを主人公にした8話で構成されています。
人生のリミットがわかった時どうするのか、というのはつまり人生をどう生きたいかということなので、設定が派手なわりにやれることってあんまり多くない。
今までどおりに生きるか、過去を振り返るか、新しいことをするか。

「天体のヨール」(ヨールって無理矢理だな!)が一番好きかな。
二ノ宮がいいね。
出ないのかと思ったけどやっぱり犬いた。
『魔王』
【伊坂幸太郎 講談社文庫】

『グラスホッパー』あたりからやや、書きたいことが変わってきたのかなぁという印象の伊坂ですが、「魔王」「呼吸」と読むとその印象も強くなります。
伊坂の小説にしては、爽快感に欠ける読後感。
過渡期、というかターニングポイントな一作なのかな、と。

伊坂キャラは団体行動が苦手そうだな、と改めて実感しました。
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『死神の精度』
【伊坂幸太郎 文春文庫】

死神を主人公にした連作短編。
他の伊坂作品よりは相互のリンクは弱いかなぁと思いましたが。
でも最終話での繋がり方はやはり爽やかな感動があります。
以下はネタバレ有でそれぞれの感想。
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『グラスホッパー』
【伊坂幸太郎 角川文庫】

伊坂はこんなに売れっ子なのに、毎回毎回新しいこと新しいことに挑戦しようとしている姿勢が素晴らしい。
きっと、適度に文章が上手くないのが逆にいいのかも。
売れている状況とは全く無関係に、書こう書こうとしているように見える。
私が勝手にそう感じているだけなのかもしれませんけれど。

三人の殺し屋と、普通の青年の4つの視点から語られます。
解説で4人の一人称って書いてますけど、これ、三人称ですから。
伊坂にしては珍しい、全部三人称で書かれている話し。
このおかげで、4人の行動や思考が高みから俯瞰されているような印象を受ける。いつもよりも突き放したような印象を受けるのもそのせいかも。

以下はネタバレを含みます。
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『チルドレン』
【伊坂幸太郎 講談社文庫】

連作短編集。
でも、ほとんど長編と言っても差し支えないかもしれない。
伊坂のお馴染みアイテム、銀行強盗の話しからスタートしてます。
時代が行ったり来たりするのも、視点が色々と変わるのもいつもの手法。
色々な人物を通して語られる、陣内という人物が最初、響野(陽気なギャングの)っぽいなぁと思ったりもしたのですが、本人の意図とは関係ないところでキーになっているあたりの使い方が上手いなぁと。

「チルドレンII」の結末は、陳腐な印象もないこともないけれど、その単純さに軽やかな感動があって好きです。
「イン」の最後、陣内が「見つけた」と言った瞬間に、正体がわからないように殴ったというその方法がわかって、思わず笑ってしまいました。
伊坂の作品は思わぬところで急に、話しが繋がる楽しさがあります。

こんなに好感と信頼を持って読める作家もあまりいない。