日々読んだ本(漫画、映画、例外的にテレビドラマ)の感想を、
ネタバレあり、粗筋なしで書いています。
批評批判は目的ではなく、個人的な感想文です。
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『日の名残り』
【カズオ・イシグロ 訳:土屋政雄 早川書房】

1956年英国、執事のスティーブンスは新しいアメリカ人の主人がしばらく帰国するのを機に短い旅に出る。
かつて一緒に働いていた女中頭であるケントンに会うため。

旅の途中、長年仕えてきたダーリントン卿の思い出、執事の鑑だった父のこと、女中頭ケントンとのことなどが回想される。
最初、品格あるその道を極めた執事であるスティーブンスというものを読者は想像するのだけれど、徐々にミス・ケントンの気持ちを忖度できなかったり、新しい主人への対応に戸惑ったり、道中で立ち寄った村でいらぬ誤解を招いたりと、最近の日本の小説や漫画に登場する完璧な執事、とは違うようだ、というのがわかってくる。

これは誰にでも訪れるだろう悲劇の物語。
長年仕えてきたダーリントン卿が思っていたような人物ではなかったこと、ケントンへの想いに気づけなかったこと、そういうことを晩年にもさしかかってようやく気づいても、もう戻れず、今さら生き方も変えられない。
絶望にいたるような悲劇ではなく、誰の人生にもあの時の選択を後悔したり今になって悟ることがあったりするだろうな、とラストのスティーブンスの涙を見ながら思う。
若い頃に読んでもいまいち沁みない小説だろうな。
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『バスカヴィル家の犬』
【コナン・ドイル 訳:延原謙 新潮文庫】

ホームズシリーズでは一番の長編。
ミステリ的にも評価高いみたいですが、怪奇小説めいた雰囲気で好きな話しの一つです。
中盤はほぼホームズが出てこず、ワトスン君が一人現地で奮闘するのも珍しいパターンだし。
終盤のホームズの登場の仕方も好きだし。
そこにいたんかい!っていう。
さすがのワトスン君もちょっとぷんぷんしてて可愛い。

挿入されているワトスン君のホームズへの報告の手紙が、叙情的で報告の手紙なのにマメだなぁとか思う。
何回も読んでるホームズも紳士だなぁ。
割と子供なBBCシャーロックとか、割と冷たい映画のワトソンとか観てると余計に沁みる。
『四つの署名』
 【コナン・ドイル 訳:延原謙 新潮文庫】

遠い昔に読んだので内容はさっぱり覚えてませんでしたが、改めて読むと長編は推理小説というより冒険小説の雰囲気強いんだなぁと思いました。
ま、そんなこったどうでもいいですね。ホームズだもの。

いつものように事件がなくて暇を持て余しているホームズの元に事件を持ち込んだメアリー嬢。
ホームズが喜び勇んで捜査しているその後ろで着々とメアリー嬢と愛を育んでいるワトスン君。
ホームズ後ろ後ろ!と言いたくなる。

結果的にワトスン君は結婚しちゃうわけで、ホームズがんばれという気持ちになる一作。

しかしBBC版とかガイ・リッチー版観た後に読むと、寝ようとするワトスン君に、バイオリン弾いてあげるホームズ優しい!紳士!!と感動もひとしお。
『アイザック・アシモフ コンプリート・ロボット』
 【アイザック・アシモフ 訳:小尾芙佐 ソニーマガジンズ】

39年から77年にかけて書かれたロボット物の短編を一冊にまとめたもの。
アシモフ先生が92年になくなってるので、この本が出たあとにもロボット小説書いているかどうかはわかりませんが、ほぼ全部なのでは。
内容は年代順ではなく、ジャンルごとにわけられそれぞれにアシモフ先生のコメントつき。

アシモフ先生いわく「脅威としてのロボット」と「哀れなものとしてのロボット」の二つのパターンにわけられるということですが、物語としては後者のほうが好きです。
部 分的にはもうすでにアシモフ先生が想定したものよりもロボットは先に行っているところもあり、アシモフ先生があくまでロボットは社会に受け入れられないだ ろうものとして書いているけれど、工場にも家庭にもロボットは入り始めている今日を先生が見たらどんな小説書いただろうなーと思います。

31編収録されているので気に入ったのだけ取り上げますね。
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『黒後家蜘蛛の会 1』
 【アイザック・アシモフ 訳:池央耿 創元推理文庫】

説明不要のアシモフ先生のこれまた不要の、安楽椅子探偵物の新ジャンルを築いた黒後家蜘蛛です。
連作短編なので、飛び飛びに読んだ記憶があるんですが、久しぶりにちゃんと読むかーと思って読んでみました。

月に一度、6人のインテリ人が集って四方山話しをする会(女人禁制)に毎回一人ゲストがやって来て、ちょっとした謎解きに発展、それを華麗に解くのが給仕のヘンリーというスタイル。
ほぼ殺人事件とは無縁ですが、遺言の謎とか、暗号とか、日常系の謎が多いので、やや殺人事件には飽き飽きしている今日この頃としては楽しかったです。

やっぱりヘンリーの出自がわかる一話目がいいです。
ヘンリーいい性格してるな!という。
連作短編で毎回毎回律儀に作品解説書いてるアシモフ先生もなかなかいいです。
ざっと40年前の作品ですが全く色あせないですね。
『特捜部Q 檻の中の女』
 【ユッシ・エーズラ・オールスン 訳:吉田奈保子 早川書房】

デンマーク発のミステリー小説。
特捜部Qシリーズは今のところ、3作目まで翻訳されていてこれは第一作目。

主人公はとある事件で同僚一人が殉職、一人が寝たきり状態となってしまった、カール・マーク警部補。
元々性格に難あり、だったのが、この事件をきっかけに一層扱いにくくなって新設されることになった、特捜部Qに異動に。
過去の未解決の重要事件を再調査する部署、まあ、日本だとケイゾクみたいな。
カールの扱いとしては特命係にも近い。
カールの相棒はシリア人のアサド。事務手伝いで警察官ではないらしい。
粗筋には大抵、アサドのことを変人と書かれているが、どっちかというとカールの方が変人っぽく見える。

手始めに調査を始めたのが5年前に発生した女性議員失踪事件。
海に転落死したと思われているし、カールたちも死んだものだと思って捜査しているのだが、実は5年間監禁されていることが、カールの視点と女性議員ミレーデの視点で書かれているので読者にはわかる。
なので、カールがずっとさしてやる気もなく、時折別れた妻に悪態ついたり、女性カウンセラーを口説いたり、上司ともめたりしているのを見ていると、早く見つけてやれ!とやきもきする。
小説の中盤とは言わないけど、三分の一くらいの時点で生存に気づいてくれればもうちょっと緊張感が出たんじゃないかなーという気がする。
それくらい、ミレーデの監禁状態が悲惨なので、カールよ、もっと真面目に捜査を!と思ってしまう。

こういったミステリーで、殺人事件ではなく、被害者がまだ生きているというのは珍しいなぁとは思う。
警察物としてはいまいち捜査のはかどりが遅いので、特捜部がもう少し定着してきたらもっとスムーズに捜査できるのか、それともコペンハーゲンっていうのはそういうものなのか、馴染みのない土地が舞台だと判断しにくい。
馴染みがないといえば、デンマークは同性婚OKなのか。全く本筋とは関係ないけど。

物珍しい印象はあるけど、既存のミステリーと比べてすごく新しい印象はないです。
『素粒子』
 【ミシェル・ウエルベック 訳:野崎歓 筑摩書房】

『闘争領域の拡大』と同様、それほど入り組んだ話しではないのだけれど、説明に困る小説。
ブリュノとミシェルという二人の異父兄弟の物語が交差し合いながら交互に語られていく。
ブリュノは『闘争領域の拡大』にも登場したようなモテない、いわゆる童貞こじらせ系をもっと悲惨にしたような人物。
ミシェルは人間社会に無関心な天才科学者。
ブリュノの人生は痛ましく滑稽だが、ミシェルの人生は孤独で無感動。

両極端の人生を語る語り手が誰なのか、最後の章までわからない。
最後の最後、ミシェルの功績がなんだったのか明確になり、2200年という未来が提示されて初めて、二人の人間を通して現代社会、小説の中では過去の世界を記録していたことがわかる。
その視点から見たとき、やはりブリュノは滑稽で惨めに見えてくるけれど、哀愁を感じずにはいられない。
2200年の世界にブリュノ的な人間はいないだろうけれど、それが幸せであるかどうかはわからない。

幸せな気持ちにはこれっぽっちもならない小説だけれど、不幸や絶望への寄り添いかたはなんだか優しい。
『闘争領域の拡大』
 【ミシェル・ウエルベック 訳:中村佳子 角川書店】

フランスの作家を読むのはひょっとして、モーリス・ルブラン以来じゃないのか、と思ったけど、そんなこともなかった。コクトーとか読んでた。

中身を説明するのは難しい。
哲学的ではあるけれど、難解というわけではなく、話しはシンプルで語りは簡潔に淡々としている。
主人公の30歳の僕が、特に大きな事件があるわけでもないが、徐々にドロップアウトしていく様子は同年代としては身に詰まるというか、どっちかというと絶望的な気分になる。
たぶん、男の人が読むとより一層共感すると思う。
僕、もしくは僕が出会うティスランという不細工で童貞な28歳に。
このどちらの登場人物に共感してもどん底気分になるのは間違いない。

非常に下に下に向かっていく話しなのだけれど、不思議と閉塞感のないラストだった。
まあ、幸せもないけど。
『ジキル博士とハイド氏』
 【R.L.スティーブンソン 訳:大佛次郎 恒文社】

初大佛次郎がこれなのか、という気もしますが図書館にあったのがこれだったので。

これで『吸血鬼ドラキュラ』『フランケンシュタイン』と並ぶ、三大怪奇小説(と呼ばれてるかどうかは知らない)を読了したわけですが、前の二作と違うのはスティーブンソンが一発屋じゃないってことでしょう。
むしろ『宝島』とかの方が有名かも。

これまた有名すぎるが故に中身の詳細は知らないっていう小説でしたが、まずは語り手がジキル博士の友人のアッタスン弁護士だっていうところが知らなかったね。
なんとなくジキル博士視点とかジキル博士の手記形式かと思っていた。
博士の手記は終盤に出てきますが。
もう一つは二重人格の代名詞みたいに言われているからそうかと思ったけれど、ジキル博士が作った薬によって姿かたちまで変わってしまうというのも知らなかったけれど、副作用的なものじゃなくて己の善と悪を分離する目的で作られたのだから、博士の実験は成功と言える。

『フランケンシュタイン』の時もそうだけれど、フランケンシュタイン君にしろ、ジキル博士にしろ別に善人じゃないので善と悪の対立と言うようにはあまり見えず、お前のせいだよ!とか、お前の無計画さのせいだよ!という思いがひしひしと。
あと両作品に共通する、科学ならなんでもできるんじゃないかっていう文系発想。気持ちは分かるけども!

本筋と全然関係ない、アッタスン弁護士と毎週日曜日に散歩するアッタスンの二人の関係が気になって仕方ない。話しもしないでつまらなさそうにしながらも、毎週欠かさない習慣って何!
『フランケンシュタイン』
 【メアリー・シェリー 訳:山本正喜 角川書店】

超有名だけど、原作は読んだことがない小説のうちの一つ。他にもいっぱいありますが。
おそろしく訳が読みづらかったのだけれど、もっと読みやすい最近翻訳された物があるのかもしれない(1994年発行)
映画化した時に出したんでしょうか。

フランケンシュタインというと、今では怪物そのものの名前のように使われていますが、本来は怪物を生み出した青年の名前がフランケンシュタイン。
なぜか老人のイメージなんですが、青年。しかもただの学生。
学問を志しドイツで学び、なんとなく二年ほど熱中した結果人造人間を作り上げてしまうという。
なんで作ったし。あと雷関係なかった。
作ったはいいけど、そのおぞましさになかったことにして、逃げ去った怪物は忘れて一年ほど放置!

物語がフランケンシュタインを北極で助けた、ウォルトンという人物が姉に書き送った手紙という形で進行。
ただフランケンシュタインが生い立ちを語り始めてから、手紙形式なくなりますが。
ウォルトンとフランケンシュタインの出会いの熱の入りように、姉さんきっと心配になってるよ。BLの気配に。

そ れはさておき、逃げた怪物が知り合いの子どもを殺し、その濡れ衣を着せられた知り合いのお嬢さんが冤罪で死刑になるという展開を経て、怪物と再会しておき ながら、悠長に怪物の身の上話を聞いたうえで、俺も女が欲しい、という願いをうっかり聞いてしまうフランケンシュタイン君はアホなのだろうか。
そのあとやっぱり止めるんだけれど。どうして早く怪物を倒す方向で決断しないのか!

そんな感じで終始、フランケンシュタイン君の行動には疑問しかわかなかったです。
派生作品がたくさんあるので、これは原石くらいに思って読むのがいいんでしょうか。
確かに刺激される設定ではあるんですが、この小説そのものの出来栄えには疑問です。